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東京地方裁判所 昭和48年(行ウ)60号 判決

山梨県南都留郡河口湖町船津三四四九番地の五

原告

有限会社富士登山観光社

右代表者代表取締役

流石喜久巳

右訴訟代理人弁護士

筒井健

右訴訟復代理人弁護士

岡田豊松

山梨県大月市駒橋一丁目一〇番二号

被告

大月税務署長

右指定代理人

増山宏

岩本親志

仲尾庄一

中川謙一

佐々木宏中

主文

本件訴えをいずれも却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

1. 被告が昭和四六年三月三一日、原告の昭和四二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税についてした更正及び重加算税の賦課決定を取消す。

2. 被告が昭和四六年三月三一日、原告の昭和四三年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税についてした更正並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定を取消す。

3. 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

二、被告

1. 本案前

主文同旨の判決。

2. 本案につき

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二、原告の請求原因

一、本件各処分の経緯等について

原告は、富士山に五合園レストハウス等を経営し、観光施設の運営を業とする会社であるが、昭和四二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「昭和四二年度」という。)及び昭和四三年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「昭和四三年度」という。)の法人税について、原告のした確定申告、これに対する被告の各更正(以下「本件各更正」という。)、過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定(以下「本件各決定」という。)並びに異議申立てに対する各決定の経緯は別表のとおりである。

二、本件各処分の違法事由

1. 被告は、原告が本件係争各年度において、観光バスの運転手、バスガイド等に供与した金員(以下「本件金員」という。)を租税特別措置法第六二条第三項(昭和四二年法律第二四号による改正後は同法第六三条第五項。以下同じ。)所定の「交際費等」に該当すると認定し、その結果、原告の各年度における「交際費等」の額のうち、同条の規定による損金不算入額昭和四二年度二、六九〇、三二一円、昭和四三年度二、七九一、一八五円を算定し、右各金額の損金算入を否認して本件各更正をした。

2. しかしながら、本件各金員は次に述べるとおり「交際費等」には該当せず、原告の各年度における損金とすべきであるから、右各金額の損金算入を否認してされた本件各更正(異議申立てに対する決定によつて維持された部分、以下同じ。)は違法であり、したがつて、右各更正に付随してされた本件各決定も違法である。

(一)  本件金員は、原告の売上げの一部還元である。

(二)  そうでないとしても、前記の「交際費等」は、企業活動における交際を目的とするものに限られ、商品の広告宣伝を目的とする支出はこれに該当しないと解すべきところ、本件金員は、来客の増加をはかつて販売を拡張するため観光バスの運転手やバスガイド等に宣伝用パンフレツトの配布等を依頼し、その履行を確保するために支出されたものであるから、観光施設等の広告宣伝費というべきである。

(三)  また「交際費等」は、支出金額が比較的高額である場合に限られると解すべきところ、本件金額は、運転手及び添乗員(旅行斡旋業者従業員)に三〇〇円ないし五〇〇円、バスガイドに一〇〇円支払われるという程度のものであつて、その額は少額であるから「交際費等」に該当しない。

3. よつて、本件各更正及び本件各決定の取消しを求める。

第三、被告の答弁

一、本案前の主張

本件訴えは、昭和四八年四月一八日に提起されているが、本件係争各年度の法人税についてした審査裁決(以下「本件各裁決」という。)に係る裁決書謄本(以下「本件各謄本」という。)は、同年一月一三日原告本店宛に郵便により送達され、原告従業員渡辺保がこれを受領したから、原告は同日本件各裁決があつたことを知つたというべきである。したがつて、右訴えの提起は、行政事件訴訟法第一四条所定の出訴期間を徒過した不適法なものである。

二、請求原因に対する被告の認否及び主張

1. 請求原因に対する認否

請求原因第二の一の事実は認める。

同二の1.の事実は認めるが、同二の2.は争う。

2. 本件各更正の適法性

本件金員は、次に述べるとおり、租税特別措置法第六二条第三項にいう「交際費等」に該当するというべきであり、被告が前記原告主張金額の損金算入を否認したのは何等違法でない。

(一)  売上げの一部還元としての売上割戻しとは、販売価額、販売数量、販売品種、相手方との緊密度、相手方の貢献度、将来性等の諸要素を総合勘案して、得意先である事業者に対し、売上高もしくは売掛金の回収高に比例し、または売上高の一定額ごとに事業所に対して支出されるものであるが、原告と当該運転手等とは、原告の販売する商品について全く取引関係にたたないのであるから、本件金員の支出が売上げの一部還元であるとはいえない。

(二)  広告宣伝費とは、購買意欲を刺激する目的で商品等の良廉性を広く不特定多数の者に訴えるための費用であつて、その相手方を常に不特定多数の者としているものをいうのであり、本件のような運転手等特定の者に対する金員の供与は広告宣伝費とはいえない。

(三)  しかして、本件金員は、運転手等事業に関係のある者等に対し、原告の経営するドライブインに駐車したことに対する謝礼として供与された贈答に他ならず、同条の「交際費等」に当たるというべきである。

第四、本案前の主張に対する原告の認否及び反論

一、本案前の主張に対する認否

本案前の主張事実のうち、原告従業員渡辺保が原告本店において被告主張の日に郵便により送達された本件各謄本を受領したことは認めるが、その余は争う。同人は、右各謄本を受領する権限を有しないものである。

二、本案前の主張に対する反論

1. 原告は、富士山で営業している関係上、本件各謄本が郵便により送達された当時は冬期間のため事実上営業を停止しており、原告代表者も不在であつて、原告代表者が本件各謄本を受領したのは昭和四八年一月二〇日であつた。したがつて、原告は同日本件各裁決があつたことを知つたというべきであるから、同日から起算して三か月以内に提起された本件訴えは適法である。

2. 1.の主張が理由がないとしても、行政事件訴訟法第一四条第三項但書は、同条第一項にも類推適用されるものと解すべきところ、本件訴えの提起は本件各謄本の送達された同年一月一三日の翌日から起算して出訴期間をわずか五日間経過しているにすぎず、本件各謄本が郵便により送達された当時、原告が事実上営業を停止し、原告代表者が不在であつた等前記事情を考慮すれば、出訴期間を経過したことについて正当の理由があるというべきであり、また、民事訴訟法第一五九条に規定する原告の責めに帰することができない事由により出訴期間を遵守できなかつたものであるから、本件訴えは適法である。

第五、原告の反論に対する被告の認否

第四の二の主張は争う。

第六、証拠関係

一、原告

1. 提出した証拠

甲第一号証

2. 乙号証の認否

乙第四号証の成立は知らない。その余の乙号各証の成立は認める。

二、被告

1. 提出した証拠

乙第一号証、第二号証の一、二、第三号証及び第四号証

2. 甲号証の認否

甲第一号証の成立は知らない。

理由

一、被告の本案前の主張について判断する。

本件各謄本が昭和四八年一月一三日原告本店宛に郵便により送達され、原告従業員渡辺保がこれを受領したことは当事者間に争いがない。してみれば、本件各謄本は同日原告代表者の了知可能の状態におかれたものと認められるから、原告は同日本件各裁決があつたことを知つたものというべきである。

原告は、渡辺保は本件各謄本を受領する権限を有しないと主張するけれども、右争いのない事実によれば、本件名謄本が原告の支配圏内におかれたことは明らかであるから、渡辺の受領権限を論ずるまでもなく原告の右主張は理由がない。

しかして、本件訴えが提起されたのは、同日から三か月を経過した同年四月一八日であること本件記録上明らかであるから、本件訴えはいずれも出訴期間を徒過したものというべきである。

原告は、行政事件訴訟法第一四条第三項但書は、同条第一項にも類推適用されるべきところ、原告が出訴期間を経過したことには正当の理由があるから、本件訴えは適法であると主張する。

しかしながら、同条第三項但書は、同項本文の除斥期間に対する除外例を規定しているにすぎないから、同条第一項に類推適用することはできない。

次に原告は、本件各謄本が郵便により送達された時、原告は事実上営業を停止しており原告代表者も不在であつたから、原告の責めに帰することのできない事由により出訴期間を遵守することができなかつたと主張する。

しかし、原告の主張するような事由が民事訴訟法第一五九条に規定する当事者の責めに帰することができない事由に該当しないこともまた明らかである。したがつて、原告の右主張はいずれも理由がない。

二、よつて、本件訴えはいずれも不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 時岡泰 裁判官 石川善則 裁判官 青柳馨)

別表

昭和四二年度

〈省略〉

昭和四三年度

〈省略〉

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